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2015年12月11日号 vol.305
おもしろ山口学/楫取素彦と二人の妻 寿と美和

写真:男爵楫取素彦肖像画(群馬県立歴史博物館蔵)、三吉慎蔵写真・坂本龍馬写真(個人蔵 下関市立長府博物館寄託)

第8回 龍馬の親友 三吉慎蔵と、素彦・寿夫妻

龍馬が縁となった絆を紹介します。

萩藩出身の楫取素彦(かとり もとひこ)と、長府藩(※1)出身の三吉慎蔵(みよし しんぞう)。後に家族のように親しくなる2人の絆には、あの坂本龍馬(さかもと りょうま)の存在がありました。

幕末、長州を救った薩長盟約(※2)。素彦の功績の一つとされる薩長盟約は、慶応元(1865)年に素彦が大宰府で龍馬と出会ったのがきっかけでした。素彦や龍馬などの仲介で、翌年、京都で盟約が結ばれます。 それを見届けに来た龍馬と共に下関から事情探索に来ていた慎蔵が伏見の船宿・寺田屋にいたところ、幕府の役人たちに襲撃されます。龍馬は手傷を負いながらも慎蔵が手槍で援護し、何とか脱出。この「寺田屋事件」を機に龍馬と慎蔵は親友となります(※3)

事件後、長府に戻った慎蔵は、萩藩政府が当時置かれていた山口へ呼ばれます。そして慎蔵に京都での一件を詳しく尋ねたのが素彦でした。素彦はその日、慎蔵を自宅へも招きます。当時は幕長戦争が迫り、事態が緊迫していたとき。慎蔵は篤実な性格で長府藩主の信任が厚く、龍馬だけでなく西郷隆盛など、藩を超えたさまざまな志士と親しくなっていました。慎蔵と素彦も情報を交わす中、親交を深めていったのでしょう。

山口県人同士の絆

それから時を経て、素彦は明治9(1876)年、群馬県初代県令(知事)となります。妻の寿(ひさ)は体調が悪化し、翌年、次男夫妻が住む東京麹町の楫取邸で療養することになります。

一方、慎蔵は明治4(1871)年、元長府藩主と共に東京へ。明治10(1877)年には明治天皇に信任されていた元萩藩士の推薦で宮内省勤めとなります。家令(※4)として仕えることになった北白川宮邸は麹町の楫取邸の向かいにあり、慎蔵は楫取邸内の長屋に転居し、やがてその広い敷地内に家を建てます。素彦と慎蔵はすでに非常に親しい間柄になっていたことをうかがわせます。

群馬で暮らす素彦は、慎蔵にたびたび手紙を送ります。「次男の元には病気の寿が留まり、次男の妻も具合が悪い様子。ご心配くださり深謝します。(中略)病気の寿のこと、特にお世話になり、これもまたお頼みします」。その文面からは、慎蔵が素彦の家族を親身になって面倒を見た様子や、素彦の慎蔵への感謝や信頼の気持ちが伝わってきます。

寿が死去して3年後の明治17(1884)年、慎蔵が別の地に家を新築することになり、素彦は手紙を送ります。「(新築する家に)雨戸が必要なら寸法と枚数を言ってください。刑務所の職工に製作を頼みましょう(※5)。(中略)あなたが移られた後、長屋にも(あなたが建てた)家にも山口県の人が入居してくれるなら心安いのですが」。

新築を祝いつつ一抹の寂しさもあったのでしょう。その手紙からは、激動の時代を経て、ふるさとを遠く離れて暮らす2人が、互いにほっとするような親しさや安心を感じていたことが伝わってきます。

楫取寿写真/写真をクリックで拡大。Escキーで戻ります

楫取寿写真(萩博物館蔵)
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長府毛利邸の写真/写真をクリックで拡大。Escキーで戻ります

明治36(1903)年に長府毛利家の邸宅として建てられた「長府毛利邸」(下関市)
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功山寺の写真/写真をクリックで拡大。Escキーで戻ります

功山寺。その裏山の墓地に慎蔵の墓所がある(下関市)
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  • ※1 長府藩は萩藩の支藩の一つ。現在の下関市の多くを領地とした。本文※1へ戻る
  • ※2 薩長同盟、薩長連合とも呼ばれ、薩長両藩の和睦を加速させたもの。慶応2(1866)年1月に萩藩の木戸孝允(きど たかよし)と鹿児島藩の西郷隆盛(さいごう たかもり)との間で成立。本文※2へ戻る
  • ※3 龍馬はその後、妻・お龍(りょう)と下関に住み、「自分に万一のことがあった場合は妻を三吉家で養ってほしい」という手紙を慎蔵に残すほど親しい関係となった。本文※3へ戻る
  • ※4 皇族付きの職員で、所属の皇族の事務の全てを管理し、職員を監督。本文※4へ戻る
  • ※5 素彦は群馬で囚人教育にも尽力した。本文※5へ戻る
【参考文献】
NHKなど『2015年NHK大河ドラマ特別展「花燃ゆ」』展示図録2015
下関市立長府博物館『三吉慎蔵と坂本龍馬』2001
田中洋一「三吉家と群馬県令楫取素彦-下関との深い繋がり-」『米熊・慎蔵・龍馬会』講演レジュメ2015
村田峰次郎『楫取素彦伝-耕堂楫取男爵伝記-』2014など
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