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2015年6月12日号 vol.294
長州砲のレプリカが並ぶ下関市「みもすそ川公園」の写真

写真:文久3(1863)年5月10日、関門海峡で攘夷が決行された。写真は、長州砲のレプリカが並ぶ下関市「みもすそ川公園」

第3回 攘夷実行と8月18日の政変
久坂玄瑞から妻・文への手紙を通して激動の1年を紹介します。

萩博物館 特別展「長州男児、愛の手紙」
現存する久坂玄瑞(くさか げんずい)から文(ふみ)への手紙6通全てを一挙初公開。下記の本文で文久3(1863)年4月・8月の手紙を紹介しています。
期間:6月21日(日曜日)まで
場所:萩博物館企画展示室
萩博物館 特設展示「兄松陰と妹文-杉家の家族愛-」
6期にわたる展示替えを通じて松陰の手紙などを展示。文や玄瑞、楫取素彦(かとり もとひこ)の生涯などについても知ることができます。
期間:平成28(2016)年9月4日(日曜日)まで
場所:萩博物館特設展示室

文久3(1863)年4月、尊王攘夷(じょうい)派の公卿(くぎょう)らに押し切られた幕府により攘夷開始の期日が決まるころ、京都にいた玄瑞は攘夷の先鋒を務めたいと考え、松下村塾(しょうかそんじゅく)の塾生や他藩の志士らと共に、海路で長州に戻ります。本営を置いた下関の光明寺(こうみょうじ)(※1)には同志が続々と集い、「光明寺党」と呼ばれるようになります。

萩では、文が玄瑞を心配して手紙を度々送り、返事を待ち続けていました。そんな文にようやく届いた返事は、つれないものでした。「このたび、拙者ども36人、下関出張として赴き、昨夜、富海(とのみ。現在の防府市)に着きました。このたびは萩へ帰ることはできず、いかにも情のない者と思われるでしょうが、お国の大事にはかえられません。まことに大人数にて心強きこと。面白く、勇ましきことです」。手紙からは、攘夷決行を前に、血気にはやる玄瑞らの様子が伝わってきます。

5月10日の夜、関門海峡でアメリカの商船に対し、ついに攘夷が決行されます。それは志士らの独断によるもので、その口火を切ったのは藩の軍艦を率いていた松島剛蔵(まつしま ごうぞう)(※2)と、光明寺党を率いていた玄瑞でした。

小田村兄様の次男・久米次郎を養子に

攘夷は23日、26日にもフランス・オランダの軍艦に対して実行されます。しかし、6月に入ると外国の軍艦からの反撃が激化。その直前、玄瑞は藩の用命で京都へ行き、下関が大打撃を被ったと知ると山口・下関に舞い戻り、再び京都へ。そんなさなか、玄瑞が文へ送った手紙には「この度は萩へちょっとなりとも帰りたかった」とあり、心境の変化がうかがえます。

8月、藩をめぐる状況が一変します。公武合体派の公卿らと結んだ鹿児島藩などによって「8月18日の政変」が起き、尊王攘夷派の旗頭だった萩藩と7人の公卿(七卿)が京都から追放される事態となったのです。玄瑞も共に京都を追われます。8月29日付けの文への手紙で、玄瑞はあふれる無念さをさらけ出します。「いかにもいかにも残念」「まことに残念、口惜しいと申すにあまりある」…。

また、その手紙で、玄瑞はある決意を文に伝えます。「小田村兄様(※3)の次男・久米次郎(くめじろう)を養子にもらいたいのです。皆さまへ相談してください。頼み入ります」。小田村伊之助(おだむら いのすけ)と文の姉・寿(ひさ)の子、久米次郎は当時数え年で6歳。玄瑞と文の願いは、かなえられます。

自身の死を覚悟し、文にも手紙で度々、武士の妻としての心構えを求めてきた玄瑞。久坂家の行く末を一層真剣に案じるほど、時局は切迫していました。

杉家の旧宅の写真/写真をクリックで拡大。Escキーで戻ります

松陰神社境内に現存する、かつて文と玄瑞が暮らした杉家の旧宅
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旧藩庁門の写真/写真をクリックで拡大。Escキーで戻ります

文久3(1863)年4月、藩主は藩の方針を攘夷と決めた後、拠点を萩から山口へ移した。写真は県庁敷地内にある旧藩庁門
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女台場と呼ばれる土塁の写真/写真をクリックで拡大。Escキーで戻ります

攘夷実行後、萩では海岸線の防御のため、男女や身分を問わず、多くの人々が協力して土塁を築いた。土塁は「女台場(おなごだいば)」と呼ばれている
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  • ※1 関門海峡近くの地にあり、寺の柱には刀傷が残る。本文※1へ戻る
  • ※2 萩藩士・小田村伊之助(後の楫取素彦(かとり もとひこ))の実兄。萩藩の西洋兵学の主要な推進者。本文※2へ戻る
  • ※3 小田村伊之助は、玄瑞にとって義兄に当たる。本文※3へ戻る
【参考文献】
末松謙澄『防長回天史』4 2009復刻版
東京大学出版会『楫取家文書』1、1970
武田勘治『久坂玄瑞』1998
福本義亮『久坂玄瑞全集』1992 など
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