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2013年12月27日号 vol.264
おもしろ山口学/「トイトイ」。福の神は小正月の夜にやってくる/写真:1月14日の夜、家々に配られる藁馬(山口市教育委員会提供)

写真:1月14日の夜、家々に配られる藁馬(山口市教育委員会提供)

江戸時代の記録にあり、今も山口県で受け継がれている「小正月の訪問者」の行事を紹介します。

山口市阿東地福(あとう じふく)では、毎年1月14日の夜、新しい年が良い年となることを願う「トイトイ」と呼ばれる行事が、子どもたちによって行われています。これは小正月(※1)の伝統行事で、よく似た行事は、かつて県内外で行われていました(※2)。しかし、ほとんどが姿を消した中、今も受け継がれている「地福のトイトイ」は、希少な小正月の伝統行事として、平成24(2012)年、国の重要無形民俗文化財に指定されました。

現在、地福で行われているトイトイとは、子どもたちが大人から教わって藁馬(わらうま)を作っておき、1月14日の夜、その藁馬を持参して家々を訪ねるというものです。子どもたちは藁馬をざるに入れて玄関先に置き、「トイ、トーイ」と叫び、急いで物陰に隠れます。訪問先の家々では菓子などを用意して待ち、その声を聞くと玄関先に出てきて、ざるから藁馬を取り、代わりに菓子などを置き、家の中に戻ります。子どもたちは家人に見つからないよう、そっと出てきて菓子などを持ち去ります。そのとき、家人は家の中に戻ったと見せ掛け、子どもたちにひしゃくで水を掛けようとすることがあります。水を浴びると縁起が悪いとされるため、子どもたちはなんとかぬれずに菓子を取ろうと家人との駆け引きを楽しみます。家々では、五穀豊穣(ほうじょう)や家内安全、無病息災を願って、もらった藁馬を縁起物として神棚などに1年間まつります。

どうか新しい年が良い年でありますように…。変わらぬ人々の願い

小正月の夜、子どもたちや若者などが家々を訪れる、トイトイのような行事は、かつて日本各地で行われていました。民俗学では、このような行事を「小正月の訪問者」といい、その訪問者は神を意味し、その年の豊作を祈る「前祝い」の行事として捉えています。

江戸時代の萩藩の記録(※3)には、トイトイに似た事例が幾つもあり、藩内各地で行われていたことが分かります。その中には、小正月の訪問者が手拭いを使って顔を隠したり、藁で編んだ笠(かさ)や蓑合羽(みのがっぱ)を身に着けたりと、風変わりな姿をしていた地域があります。そうした日常と異なる風変わりな姿をすることで、神の訪問を表したのでしょう。訪問者の持参品は藁で作った馬や船(※4)、銭差(※5)など、いずれも縁起物でした。縁起物をもらうと、神が福をもたらしてくれることへのご祝儀として、家人は餅などを置きました。また、小正月の訪問者へ水を掛ける(※6)ほか、墨を付けて戯れた所もありました。

なぜ「トイ、トーイ」などと叫ぶのか、確かなことは分かりません。人の目には見えない神が訪れたことを知らせる合図と思われます。

「どうか新しい年が良い年でありますように…」。小正月の夜、子どもたちが訪れるのを楽しみに待つ地福の人々。トイトイは、子どもと大人が触れ合いながら伝統を守る地域の温もりと共に、新年に願いを託してきた、いにしえの人々の心の声も届けてくれます。

子どもたちが藁馬をざるに入れて玄関先に置き、「トイ、トーイ」と叫んでいる様子/写真をクリックで拡大。Escキーで戻ります

子どもたちは藁馬をざるに入れて玄関先に置き、「トイ、トーイ」と叫びます(山口市教育委員会提供)
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物陰に隠れて、家人が家から出てくるのを待っている様子/写真をクリックで拡大。Escキーで戻ります

物陰に隠れて、家人が家から出てくるのを待ちます(山口市教育委員会提供)
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子どもたちがぬれずに菓子を取ろうとして家人との駆け引きを楽しんでいる様子/写真をクリックで拡大。Escキーで戻ります

子どもたちはぬれずに菓子を取ろうとして家人との駆け引きを楽しみます(山口県文書館提供)
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  • ※1 陰暦で、1月1日の大正月に対し、1月15日のことを指す。 また、1月14日から16日までをいう。その年の最初の満月をもって年を迎えるとする考え方に基づく。本文※1へ戻る
  • ※2 県内外、地域によって呼び方は異なる。現在の市域でいうと、かつて防府では「とろへい・とろへ・とひ」、長門では「とへい」、下関では「とへ」など。下関市豊浦町では「盗餅馬(とへま)」といい、現在、消防団によって行われている。本文※2へ戻る
  • ※3 「風土注進案」。本文※3へ戻る
  • ※4 馬や船を神の乗り物として、この行事では藁馬や藁船を作るとも考えられる。本文※4へ戻る
  • ※5 銭貨の穴に通して保管・運搬などのために使う藁や、ひも。本文※5へ戻る
  • ※6 他地域でも同様のことを行う所があり、『年中行事大辞典』によれば、水をうまく掛けると豊作といっていた地域もあるという。本文※6へ戻る
【参考文献】
加藤友康等編『年中行事大辞典』2009
金谷匡人「『防長風土注進案』「風俗」の項にみる村の「正月」」『山口県文書館研究紀要』第40号 2013
福田アジオ他編『日本民俗大辞典』上1999・下2000
山口県教育委員会編『山口県の祭り・行事 山口県祭り・行事調査報告書』2008
山口県文書館編『防長風土注進案』9・10・14・18・19巻 1983
日本大辞典刊行会編『日本国語大辞典』第4巻1980など

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