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2013年10月25日号 vol.260

茶臼山
第2回:輝弘の夢が残したもの
大内輝弘(おおうち てるひろ)の挙兵が県内各地に残した多くの痕跡や影響を紹介します。
大内輝弘(※1)が大友(おおとも)氏(※2)の支援を受け、北部九州で大友勢と交戦中の毛利(もうり)(※3)勢の虚を突いて山口に進攻し、毛利氏の防長(ぼうちょう)(※4)支配の要の城・高嶺城(こうのみねじょう)(※5)を孤立させ、大内氏再興を果たしたのは永禄12(1569)年10月半ばのこと。しかし、その再興は長く続きませんでした。毛利元就の命で北部九州にいた大軍が山口へ向かったと知った輝弘勢は、兵力差ゆえか、一時逃れて立て直そうとしたのか、山口から逃走。輝弘の挙兵に連動して各地で起きた一揆も毛利勢に掃討され、輝弘勢は豊後国へ脱出しようと、当初上陸した秋穂(あいお。現在の山口市秋穂)へ向かいます。
ところが、乗ってきた船はなぜか残らずなくなっていました。船を求めて東へ、東へと逃れ、富海(とのみ。現在の防府市富海)から海に出ようとしたのか、浮野峠(うけのとうげ)(※6)へ。しかし、そこで前後を毛利勢に阻まれ、進退窮まった輝弘は10月25日、ついに茶臼山(ちゃうすやま)(※7)で自刃します。そのとき輝弘は「自分が切腹する代わりに手勢は助け、大友方へ返してほしい」と毛利氏の家臣に頼んだといわれますが、願いはかなわず、1,000人余りが討ち取られました。
地名や隠れた歴史が物語る挙兵の影響の大きさ
大内氏再興の夢は10日余りで消えたものの、多くの痕跡を残しました。この戦いで炎上したと伝わる寺社が、山口の町から遠く離れた山口市阿東(あとう)や、周南市下上(しもがみ)などにもあります。防府天満宮や、その鳥居前町の宮市(みやいち)も炎上し、例年10月15日に行っていた御神幸祭(ごじんこうさい)(※8)は40日延期されました。
また、輝弘勢の上陸時に道案内した人々が毛利方に殺害され、そのことが由来と伝わる地名「首谷ケ浴(くびたにがえき)(※9)」。輝弘勢の兵がかぶとを脱いだことから山の名となったという「兜山(かぶとやま)(※10)」。他にも関連する地名が複数残り、これらは、この事件が人々の記憶に深く刻まれたものだったことを物語ります。
大内氏滅亡から10年以上たつ中、毛利氏は大内氏の遺臣の生活を援助することで自分の味方にしていく政策をとっていました。しかし、毛利氏がそうした政策をとっていたにもかかわらず、毛利氏の家臣となって山口を治める組織の一員となった経験を持つ大内氏の遺臣(※11)の中にまで、輝弘の協力者がいました。広範囲で混乱が起き、毛利氏の家臣となっていた者や、一揆を起こした地域の人々など、多くの反毛利勢力がいまだにいたことは、防長支配を進めてきた毛利氏にとって衝撃でした。毛利氏はその後、北部九州への進攻を断念し、領国支配を固めることに転じます。輝弘の挙兵は毛利氏に軍事や政治を転換させるほど、大きな衝撃を与えた事件だったのです。
輝弘挙兵の4年前、輝弘を待って屋代島(やしろじま)(※12)に集結していた大内氏の遺臣らが、それを察知した毛利氏によって一網打尽になっていました。もし、その一件がなければ、10日余りで幻となってしまった、大内氏のいわば「最後のプリンス」輝弘の夢は、違う結果になっていたのかもしれません。
- ※1 重臣らによるクーデターで自刃した大内義隆(よしたか)のいとこ。
- ※2 豊後国(ぶんごのくに。現在の大分県の大部分)を拠点とする戦国大名。当主は義鎮(よししげ)。後の名は大友宗麟(そうりん)。
- ※3 安芸国(あきのくに。現在の広島県西部)を拠点とする戦国大名。当主は元就(もとなり)。
- ※4 周防国(すおうのくに)と長門国(ながとのくに)。現在の山口県。
- ※5 現在の県庁の西、鴻ノ峰(こうのみね)にあった城。
- ※6 現在の国道2号、防府第2トンネル付近の峠。
- ※7 現在の県道58号(旧国道2号)、富海の茶臼山トンネルが通る山。
- ※8 別名、裸坊祭(はだかぼうまつり)。
- ※9 山口市阿知須(あじす)にある。
- ※10 山口市秋穂二島(ふたじま)にある。
- ※11 大内氏の近臣だった吉田興種(よしだ おきたね)。また、大内氏滅亡の緒となった厳島(いつくしま)の戦いで、最期まで毛利氏に対して戦った大内氏重臣・弘中(ひろなか)氏の家臣も、輝弘に協力した。
- ※12 別名、周防大島。
- 【参考文献】
- 岡村好甫「大内輝弘の山口進攻事件とその歴史的評価」『山口県地方史研究』第35号1976
- 山口県編『山口県史 通史編 中世』2012
- 山本浩樹『西国の戦国合戦(戦争の日本史12)』2007
- 渡辺世祐『毛利元就卿伝』1984など

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