おもしろ山口学

冬の海からの贈り物-アオイガイとタカラガイ-

 冬の日本海側の海岸で楽しめる「宝探し」を紹介します。

 対馬暖流にせり出すような位置にある山口県。そのため山口県の日本海側では、対馬暖流の影響で南方の貝が見られます。また、海岸線が長いこと、その環境が砂浜・岩場などバラエティー豊かなこともあり、さまざまな種類の貝殻の採集を楽しめます。しかも冬は、北西からの季節風によって、海岸に貝が打ち上げられやすいため、貝殻の採集には最適な季節です。
 冬、下関市から萩市にかけての砂浜で採集できる、美しい貝殻に「アオイガイ(※1)」の貝殻があります。アオイガイは温帯や熱帯の海に生息するタコの一種です。この雌が、石灰質を分泌して貝殻を作り、その中に卵を産み付けます。そして貝殻を抱いて海を浮遊し、冬、主に日本海側に漂着するのです(※2)。貝殻は白色をした、長径約10センチメートルから20センチメートルの大きさで、光を通すプラスチックのように薄く、さざ波のようなひだが、らせん状の貝殻一面に刻まれています。
 タコが作った、その繊細な貝殻は、昔から人々を魅了してきました。幕末の奄美(あまみ)大島の風物などを描いた図解民俗誌(※3)には、「うすくしてビイドロ(※4)の如(ごと)し」とアオイガイの貝殻が紹介されています。また、その近似種のタコブネ(※5)の貝殻も、江戸時代後期、滝沢馬琴(たきざわ ばきん)(※6)らが各自所有の珍品を紹介した書物(※7)に絵入りで紹介されています。

古代中国で貨幣として珍重されたタカラガイ

 山口県の日本海側で採集できる美しい貝殻には、「タカラガイ(宝貝)」もあります。タカラガイは、多彩な色や文様、陶器のような滑らかさや光沢を持つ半球型の巻き貝です。世界の海には約200種類が確認されており、日本では主に沖縄周辺などの南方の海に生息しています。そのため日本海側で見つかるのは珍しいのですが、山口県の日本海側の岩場では、これまでに31種類が発見されています。
 その中には、日本海側であまり採集できない物も数種類あります。その1つ、黄色っぽい色をした「キイロダカラ」は、古代中国では、その色の美しさや珍しさに人々が憧れ、殻の長さが約1.5センチメートルから2センチメートルと扱いやすいためか、貨幣として使われました。象形文字の「貝」のもとにもなり、「財」「貯」など、お金にまつわる漢字に貝偏の部首のものが多いのは、そのことに由来します。他に、褐色の背面に白い斑点を星のようにちりばめた「ホシキヌタ」も、日本海側では、あまり採集できない物の1つです。また、背面が紫色を帯びた褐色で白い斑点があり、腹面はやや紫がかったピンク色をした「アヤメダカラ」など、日本海側では、めったに採集されないタカラガイが、山口県で見つかることもあります。
 南方から海流や風に運ばれて漂着する美しい貝殻。冬の山口県の日本海側の海岸は、宝探しを楽しめる海岸です。

※1 アオイガイ科のタコの仲間。その名は、貝殻を2つ向かい合わせると、アオイ(葵)の葉の形に似ていることに由来する。貝殻に着目してアオイガイ、動物体(タコ)に着目してカイダコと、異なる名前で呼ぶこともある。
※2 空っぽの貝殻だけ、あるいはまれに動物体と貝殻が共に漂着することもある。
※3 鹿児島藩士の名越左源太(なごや さげんた)が奄美大島の年中行事や動植物などを記録した『南島雑話』。
※4 ポルトガル語でガラスの意味。
※5 貝殻はアオイガイより小さいが、形はよく似ている。
※6 『南総里見八犬伝(なんそうさとみはっけんでん)』などを書いた作家。別名、曲亭(きょくてい)馬琴。
※7 画家の谷文晁(たに ぶんちょう)らも参加した『耽奇漫録(たんきまんろく)』。

参考文献
石井忠『漂着物事典 海からのメッセージ』1986
奥谷喬司編著『日本近海産貝類図鑑』2000
奥谷喬司『軟体動物二十面相』2003
萩博物館「萩近海のタカラガイ図鑑」2008
豊北町史編纂委員会編『豊北町史2』1994など

▲このページの先頭へ