平成17年1月14日号(HTML版)VOL.61
山口県広報広聴課

おもしろ山口学

リレー随筆「ふるさと山口の味」~「ケ」ときどき「ハレ」~ 著/貞永 美紗子(郷土料理研究家)

第1回 『山口県の郷土料理』

ちしゃもみ
ちしゃもみ
(写真提供:KRY山口放送)
けんちょう
けんちょう
 山口県は三方を海に囲まれ、中央を緩やかな中国山地が横ぎっています。一部山間地を除いて気候は比較的温暖で、水産物、農産物には恵まれた地域といえます。
 食生活の面では華やかな大内文化よりも、その後の毛利藩の厳しい倹約令の影響が大きかったと思われます。人々はぜいたくをしない暮らしを心掛け、質実剛健の気風の中で手近な食材を上手に使う工夫をしました。特徴としては、質素で飾り気がなく味わいも淡白でソフトなものが多いようですが、この特徴は、一面では目立たないということにつながり、山口県の郷土料理に対する認識を弱めていた節もあります。
 しかし、山口県全域で作られる「ちしゃもみ(ちさもみ、ちしゃなます)」は、畑から採ってきたちしゃをちぎって、いりこや木の芽をすり込んだ酢みそなどであえるという、簡単、新鮮さが身上のさわやかな料理で、先人の優れたセンスが感じられます。かつては、山口県外で庭にちしゃが植えてある家には長州人がいると思えといわれた時代もあったとのことで、ちしゃもみは、山口県を代表する個性的料理ともいえます。また、「けんちょう」は、大根と豆腐を主体としたしょうゆ味の煮物で、健康的な素材の組み合わせや煮返して食べられる便利さには先人の知恵が思われます。
 気候、風土、歴史に培われたふるさとの味は、地味な中にも家庭料理として素晴らしいものがたくさんあるのです。



第2回 『「ケ」の料理』

わかめむすび
わかめむすび
茶がゆ
茶がゆ
 「ケ」の料理、すなわち日常食の中でふるさとの味といえば、まず、萩市など日本海側を中心に作られてきた「わかめむすび」でしょうか。わかめむすびは、おむすびに刻んだわかめをまぶしただけの簡単なもの。普段は、刻んだわかめをそのままご飯にふりかけて食べましたが、お弁当にはどこの家でもわかめむすびを作りました。わかめは自分で海に採りに行って干し、生乾きのときに包丁やハサミで細かく刻み、缶にいれて常備しました。年配の男性は「子どものころ、春の遠足のお弁当はいつもわかめむすびでした。春先になると、母親が台所で干しわかめを一生懸命刻んでいた姿を思い出します」と話してくれました。現在はこうした食習慣を受け継いだ形で、きざんだわかめが市販されています。
 「茶がゆ(茶がい)」は柳井市や周防大島町、徳地町など広い地域で、朝食や夕食に食べられてきました。以前はどこの家にも鑵子(かんす)と呼ぶ茶がゆ専用の美しい鉄釜があり、さらしの布袋にほうじ茶を入れ、鑵子の湯の中で煮出し、そこに米を入れて強火で炊きました。布袋は茶の色で染まり、いつも煮立ったお茶の香りが漂う台所でした。
 「ケ」の料理からは、どこか懐かしいふるさとの暮らしの匂いがしてくるようです。



最終回 『「ハレ」の日の料理』

岩国ずし
岩国ずし
いとこ煮
いとこ煮
 現在、郷土料理として紹介されているものの多くは、ハレの日、つまり特別な日の料理です。
 その特別な日に欠かせないのはおすし。山口県は押しずしが主流で、合わせ酢には新鮮な魚を浸し、深みのあるうまみを出しているのが特徴です。形は色々ありますが、有名なのは「岩国ずし」でしょう。すし飯一升分を一段として、二段、三段と重ねる豪快なもので、一段ごとに上に錦糸卵(きんしたまご)やシイタケ、そぼろなどを美しく飾り、段の仕切りにはチシャの葉やハスの葉を使います。お膳には小型に切り分けて盛りつけされるので、豪快さは消え、品よく華やいだ姿に変身しています。岩国ずしは、昔、武士が登城するときの保存食として考案されたという言い伝えがあり「殿様ずし」とも呼ばれてきました。
 あずきと白玉団子をうす甘く煮た「いとこ煮」、萩地方ではかまぼこやシイタケなどを昆布だし汁で煮て加え、澄んだ煮汁が特徴の冠婚葬祭用の料理です。瀬戸内海側のいとこ煮は汁気がなく、主として法事の料理となっています。
 その他、「かぶ雑煮」や「えそのだんご汁」などハレの日の郷土料理は、どれも皆、ふるさとの人々の喜びや悲しみを重ね合わせながら、今日まで伝えられたものばかりです。