平成16年11月26日号(HTML版)VOL.58
山口県広報広聴課

おもしろ山口学

リレー随筆「下関とふく」 著/松村 久(下関唐戸魚市場(株) 代表取締役社長)
※山口県では、幸福の「福」に通じることから、フグは「フク」と呼ばれています。

第1回 『どうして下関?袋せり?』

 下関は明治の時代から大陸の玄関口として繁栄し、多くの政治家や商人が集まりお酒を飲み遊びもしていました。と同時に、魚は日本海と瀬戸内海の両方から集まり、さらに美味しいフクも下関へと集まってきていました。ここ下関でフクの味を覚えた政治家や商人は東京へ帰ってからも「ぜひもう一度フクを食べたい」と願い、そうしたことが下関から東京へとフクを送る流れを発達させたわけです。
 昭和40年、李承晩ラインという日本近海に漁場を区切っていた規制が撤廃されて東シナ海漁場が解禁となりました。山口県の船もフクを求めて操業します。するとよく釣れるは釣れるは。2、3日で船倉を満杯にして帰港しました。そこからフクの大衆化が始まり、下関の商人が全国に営業に出て行き、フクが売れるようになりました。昭和50年代は少し漁も少なくなり高値となりましたが、冬の味覚フクは下関発のテレビや新聞を通じた報道のおかげで全国区となりました。値段が高いフクの取材に来たテレビ局の人たちは、初めて見る“袋せり”に関心を示し、丸く膨れるフクと袋せりがよく似合うことで取材も多くなりました。
 昔は魚を生かす水槽もなく、船も小さくて時化(しけ)で操業できない日も多かったはずです。その分、相場の変動も激しかったでしょう。普通、会席料理では白身の鯛が無ければヒラメというように代用品がありますが、フクを食べに専門料理店に行って、「今日は時化でありません」では看板倒れと言われます。時化の時はどうしても困ります。
 そんな折、セリ場で昨日は1匹1万円だったのが、今日は入荷が少ないので2万円で落札したら、商人たちが3万円でも4万円でも買い、セリ場で喧嘩になることがしばしばあったようです。そこで希望の入札価格を袋の中で売り買い両者が指と指で数字を作って競り落とす方法が生まれました。これが下関の“袋せり”の始まりです。ユニークなフクには袋せりが一番。これからも続けていきたいと思っています。



第2回 『ふくの町 下関』

 下関ふく連盟では、年に3回ほど大きなお祭りを行っています。2月9日の「ふくの日まつり」、4月29日の「ふく供養祭」、9月29日の「秋のふくまつり」です。
 2月の「ふくの日まつり」は、一年で一番美味しい時期のフクを食べていただきたいという気持ちでフクをPRしています。4月の「ふく供養祭」はフクシーズンの終わりをお知らせするために、全国からフク料理店の社長さんらが集まって、尊い命を私たちに捧げてくれたフク殿に感謝の気持ちを示します。逆に9月の「秋のふくまつり」はフクシーズンの始まりを告げる行事です。
 そのほか、11月23日の「下関さかな祭」も大変盛況です。ジャンボ鍋でフクの味噌汁を1万食作って来場された皆様に振る舞うほか、フクをはじめ下関ならではのさまざまな魚の販売も行います。
 お祭り以外にも、下関市内の小中学校では給食でフク雑炊が出るほか、市内にある大学の学園祭や入学・卒業式ではフク鍋を用意して、県外から入学してきた学生さんや保護者の皆さんに振る舞うなど、下関の魚・フクを誇りに思うように各方面でもいろいろと努力されています。さらに今後は新しい試みとして、毎月29日を「ふくの日」と決めて、料理屋さんやお土産店で皆様に喜ばれる企画をやっていただきたいと思っています。
 ところで、下関にはギネス級の直径2.1メートルという大きなお皿があり、以前、この皿のお披露目でフクの刺身を引くというイベントを実施したことがあります。9時間もかかってようやく皿一杯の大きなフク刺しができましたが、食べてなくなるまではたった30分でした。一度で良いので、お腹一杯フク刺しを食べたいと夢見る人が多いのは下関だけではないでしょう。日本中の人たちの夢だと思います。



最終回 『本場ならではの小技・ふく料理』

フク刺し 本場ならではというと、やはり自分でフク刺しを引いて食べる料理教室でしょうか。プロが作るフク刺しもおいしいけれど、一度くらい厚いフクの刺身を食べてみたいというのが人情です。そこで喜び勇んで料理教室に挑戦しますが、だんだんと薄いフク刺しが恋しくなるのは何かフクならではの魅力があるようです。
 自宅で料理する時は三枚に下ろして身を湯でボイルして「たたき料理」にします。そして薄く引いて切ると即席のフク刺しができます。皆さんもご自宅でぜひチャレンジしてください。それから、若者に人気があるのはフクの唐揚げでしょうか。鳥の唐揚げと通じて、若者にも人気があります。また刺身をキムチで食べるとひと味違います。2、3月に日本海で漁獲されるマフクはこの食べ方が一番ですね。
 今年春、日本・中国・韓国のフク関係者が下関に集まってシンポジウムを開きました。そこで各国のフク料理が披露されました。最近フク食が盛んになってきている中国からは、独自の趣向を凝らした創作料理が紹介され、中国の来賓客は「私の国の料理が一番早くなくなった。やはり一番おいしいからだ」と喜ばれていました。隣の韓国からは、フクを輪切りにしてチゲでグツグツと煮た韓国ならではのチゲ料理が披露されました。辛いのが苦手な人には向きませんがなかなかの味わいで、珍しさもあってとても人気がありました。わが国日本からは、食の芸術作品・フク刺しを3種類の形に盛って披露し、出席者の目と舌を楽しませていました。シンポジウムは日中韓の壁を越えた盛り上がりの中、閉会しました。これからは3国が協力し合って、フクの養殖技術の向上や料理の研究、食文化の交流を図りながら、協調して生きることが大切だと思っています。

※チゲ… 韓国料理の鍋物のこと。